一流は自分で一流とは言わないと思う。「超一流の雑談術」

Prime Readingに入っていて、タダだし(Prime会費はかかっているが)読んでみるかと落とした本。

フランス人万能説がでるくらい「フランス人は〜」「フランス人の〜」という枕詞はビジネス書界隈では定番と化しているが、元祖本家本流のワードが「一流」である。
そんなタイトルをつける方もつける方だが、それに手を出す読者が一定数いるというのが恐ろしい。

さらに一流どころか、言うに事欠いて「超一流」である。

各章ごとに

三流は〜
二流は〜
一流は〜

と掲げる構成の何様感が微妙に不快な本書だが、内容は案外まともである。

全8章に38のポイントが示されているのだが、「一流の会話術 38のルール」なんてタイトルで売れた類書に乗っかる手もあったかもしれない。余計なお世話だが。

雑談嫌いの心理

そもそも、わたしは他者と目的もなしに話すという習慣が理解できず、話しかけられるのも嫌だった。

目的があったとして、ならばとっとと用件に入って話し終わるべきだと考えていた。

雑談の過程で余計なことを聞かれて答えるのも面倒だし、私的領域に踏み込まれつつある感があって居心地の悪い思いをするばかりで、相手方だってそうだろうし、余計なことは聞くまいと心がけてさえいた。

世の中には沈黙に耐えられないという心理があるらしいと知ったのは随分大人になってからである。

わたしはなるべく1人でいたくて、周囲に人がいると嫌だなと思うだけなのだが、よくよく考えてみればお互い様なのである。いるだけで互いに不愉快、それを緩和するために雑談を交わすのは当然のマナーだったのである。

会話の労力

話下手、会話が苦手、というと、聞き役に徹すればいいのだ、とはよく言われるが、本書では、聞くのは話す3倍の労力が必要とする。

話すか聞くか、ということは重要ではなく、相手に気を配りつつ話し、あるいはうなずき、質問し、といった、単純ではない、アドリブありきの頭をフル回転させた作業をしようとすればそうなる。

雑談は高等技術

そんな面倒なことがこの世の中の津々浦々で日常的にきちんとなされているわけがない。会話が苦手で嫌いで喋らず孤独を指向する人間がいる一方には、おしゃべり好きだが会話上手ではない大勢の人間がいる。

ただのおしゃべりと、本書などコミュニケーション系のビジネス書で説く会話は明らかに別物で、後者は意識的に準備し、練習しなければ身につくものではない。

できないのは減るべき段階を踏んでいないからだ。まあ、やればできるという保障もないのだが。

雑談トレーニング

本書はトレーニングメニューまで設定してある超一流の親切設計である。

  1. エレベーターで相乗りしたら階数を尋ねる。
  2. 会計時、店員に一言声をかける。
  3. 発声のコツ 
  4. 知らない人と雑談する(飲み会、異業種交流会、タクシー、美容室etc)
  5. 現在の人間関係で苦手/嫌いな人間と雑談する
  6. スピーチのネタをこする。
  7. 連想ゲーム、謎掛け
  8. 乾杯の挨拶を引き受ける。

超一流の割に思いつくまま並べた感もあるのだが、整理すれば、

事前の準備/日常の練習として

  • 発声法・発声練習
  • ネタの収集、整理
  • 謎掛け連想ゲーム

実践の一段階目として

  • 一言二言で終わるシチュエーションで赤の他人と話す。

第二段階として

  • 一定の長さの時間、赤の他人と会話する。
  • スピーチ、プレゼンに挑む

応用編として

  • 人間関係を改善する会話

といった形にしておきたい。

せっかくなのでいずれやってみたいと思う(多分やらない)。

「最強のコミュニケーション ツッコミ術」ビジネスにも通ずるかもしれないお笑い論

ツッコミという「聞き方」

2015年発行。これは買った当時途中まで読んでいた。

促しつつ、質問をしつつ聞き役となる、という定番の話し方手法の、聞き方にフォーカスした書、と言えるかもしれない。

すなわち、

ツッコミ=不足した情報の指摘 → 相手がその情報を追加する

という基本的な流れによって会話を展開させていくわけである。

一般人にも使えるお笑いテクニック的な趣もあるが、笑いの微妙なアヤ、間は新書一冊で到底伝わるものでもなく、

ネットに溢れるお笑い動画を飽きるほど見まくるとか、そしてボケでもツッコミでもお笑い的会話の場数を恥も外聞も捨てて失敗しまくりながら習熟していくしかないのだろうが、

そこまでして、いわゆる「面白い人」になりたいかと言うと、やはり、

別に。。。

なのである。

また、お笑い芸人はだしのツッコミができたとして、それを日常会話に持ち込んで、それほど良い結果になるとは思えない。

芸人のボケ・ツッコミは、何気ないように見えて、非日常の特殊なものだ。

しかし、本書で言う、ツッコミ脳をつくる、という部分は会話という枠を超えて有益であるかもしれない。

お笑い芸人でツッコミ役の人間のメリットも示されている。周囲からの評価が高まり、場の主導権を握れるというのだが、そのメリットを享受するのもツッコミ脳のなせる技である。

ツッコミ脳の作り方

非常識さ(=ボケ)に、常識人の立場から違和感を抱き、指摘するのがツッコミの役目。

何が常識で何が非常識なのか、どこが常識でどこが非常識なのか、誰が常識で誰が非常識なのか、

これらを正確に、かつ瞬時に見抜くために求められる能力は、平たくいえば、論理力です

ツッコミ脳の柱は、
・微細な情報に対する注意力・観察力
・情報の分析力
・分析を踏まえた判断力

であり、ツッコミ脳をつくるとはこれらの能力を磨くことである。

ツッコミが上手い人は、荷造りが上手です。

(略)前の晩にかばんを開き、「これは要るだろ!」「これは現地で買えばいいだろ!」「これがあれば便利だろ!」

などとツッコみながら、用意する荷物を思案しているはずです。

よいツッコミとはいいビジネスマンである。という本ができそうである。

大半の人間は、ビジネスの場面や日常の個人的な人間関係でのコミュニケーションを上達させたいと考えているわけで、結局ツッコミ云々はいらなかったんじゃないか、という気もするが、

テレビでおなじみのMCタレントのおなじみのやり取りの狙いの解説でもあり、それはそれで楽しい本である。

未読ながらあちこちでこすられすぎてなんとなく内容は知ってしまっている

の3列形式のノートフォーマットは、ツッコミ練習にもいいかもしれないと今思いついた。

まあやらんけど。

「誰とでも15分以上会話がとぎれない!話し方66のルール」を10年越しで読んでみた

本書は2009年から2010年にかけて売れていたと記憶している。だいたい同じ頃にブックオフで買った気がする。よく覚えていないが。

買ったのは会話が苦手だからであり、読まずに放置していたのはそこまで会話したくないのと、こういう本を読むこと自体にこっ恥ずかしさがあったからである。

基本的に、そもそも他人と話したくない、他人と同じ空間にいたくない、という人間なので、本書の対象外の外なのだ。

本書に当たる前には、問答無用で誰が相手だろうと15分以上話さなければ死ぬ、とぐらい仮想しておく必要がある。

「誰とでも15分以上会話がとぎれない!話し方66のルール」

タイトルだけを見るといかにもベタなノウハウ本的な66のテクニック、会話の場面において心がけ、やるべき66のマニュアル、というように勝手に変換してしまうのだが、

実のところ、66のルールと言うより7章66節とでもいったほうがいいような内容で、考え方、心構え的な部分が多い。

適当ないい加減な些末な表層的なことを並べてこれで苦手な会話も大丈夫、というようなお手軽な本ではなく、作者には話し方講師としての誠意は感じられる。

ともあれ、7章からなる66のルールはもっとシンプルにスリム化できそうでもある。

1 聞き方

  • 相手の気持を忖度しながら適切な相槌をうち、共感を表明する。
  • おざなりにならないよう、共感の言葉、感情表現のボキャブラリーを用意しておく。

2 話し方

  • 質問に合わせて自己開示。自分の性格がわかるような習慣、考えを伝える。
  • 質問する際は、相手の性格がわかるような話題を尋ねる。

3 質問

  • 5W1Hの情報と気分・感想を尋ねる。
  • ネガティブな部分、おおっぴらに言えない本音を促す。
  • 相手を主語にした流れを作る。

4 沈黙を切り抜ける

  • 天気などありきたりなネタ+自己開示
  • そして自己開示
  • 時にねぎらい
  • 目に見えたものからネタを拾う

5 関係づくりの端緒

  • 先手の挨拶
  • ほほえみ
  • アイコンタクト

6「人の輪」の入り方

  • 相槌を打つ、呼吸を合わせる。
  • やっぱり自己開示
  • 共有性の高い話題をストック
  • 内輪ネタ・マニアックネタは避ける

7 更に細かいテクニック

  • 細かい変化、仕草に注意する。気にかける
  • Yes/Noクエスチョンは答えやすい。
  • 名前で呼びかける。
  • 過去の会話/エピソードをまぜっかえす。
  • 異論があったら、直接的な否定/反論ではなく、質問形式で指摘する。
  • 感謝と労いのメールで距離を詰める

聞き役になれば大丈夫とか言いがちだけど、結局話さにゃならんのね

まずは聞き役に、というのはこの手の本にありがちなのだが、互いに打ち解けていないうちではいずれも話は弾まず、聞こうにも相手が話してくれないという事態になる。

こちらから積極的に話をすれば相手も多少は違うのだろうが、結局こちらから話をする覚悟を決めなければならない。

本書をさらにコンパクトにするならば、

  1. 話すネタを用意しておく。
  2. 相手をよく観察する。場の空気を読む。
  3. 効果的なあいずち、質問で相手の話を引き出し、広げる。
  4. 適宜自分のネタを挟む。

ということになろうか。そして、結局場数なのだろうな。残念ながら。

語学を身につけるには、当該国に移住するか、その言語を話す恋人・友人をつくれ、などとよく言われるが、これは話し方にも通ずるように思う。

話さなきゃ死ぬ環境に身を置く、話さなきゃ許されない相手と一緒にいる。

うげ。

話し方以前の問題

これらの手法の有効性はさておき、話が苦手という人は、そもそも話さなければいけないというシチュエーション自体にストレスを感じるものである。

  1. 聞き方 ←別に聞きたくない
  2. 話し方 ←余計な情報与えたくない
  3. 質問 ←広げたくない
  4. 受け答え ←めんどくさい
  5. 関係づくり ←別に作りたくない
  6. 人の輪に入る ←別に入りたくない
  7. ひとつ上の話し方 ←もう無理

いちいち拒否感が頭をよぎる。これは言い逃れようのない恥ずべき幼児性であり、社会人失格な無責任ぶりと自己批判せざるを得ない。

それは百も承知なのだが、

本書に、質問の語尾は「〜ですか?」ではともすれば尋問的になるので「〜でしょうね?」と柔らかくしようとあるのだが、どうしても、なんだか言われるのも言うのもキモいと感じてしまう。

穏やかな笑みを浮かべてアイコンタクト、やはりこっ恥ずかしい。

で、何はなくても自己開示、といった話に帰結する。

それがいやなんですよ。

話すネタを用意するために積極的に人と関わろうというのだが、それができている人はこんな本は読まない。

そして、このような救いようのない怠惰と幼稚性から来る忌避感をいかに克服するかという別のテーマが出てきて、

「嫌われる勇気」とかにつながるわけである(わけではない)。

[本] 斉藤英治「王様の速読術」

 しつこく速読本である。「ぼくは王さま」シリーズを彷彿とさせる安直デザインの王様が「〜じゃ」と言いながら速読術を解説してくれるというかたじけなくもありがたい構成が新味か。あとは基本的には今どきはだれでもどこかで目にしたことのある定番の速読メソッドである。速読法に限らずビジネス書、実用書などは同工異曲のパクリパクられ本の氾濫なわけであるが。
 内容はわかりやすく、速読法に全く不案内で、本は一言一句まで律儀に読むものだと信じていて、そのために1冊ごとに大変な時間を取られ、結果、読書ってめんどくさいなあ、と思って本から離れがちな人にはいいかもしれない本ではある。

 そのメソッドは定番の、
① プレビュー 5分
② 写真読み 5分
③ つまみ読み 20分
である。すなわち1冊30分というわけだ。

 くどいようだが個人的に、写真読みと言われる、読まずに見開き全体を脳に写し込むように云々というのはおまじないのようなものだと考えている。脳科学的にどうこうと言う話もあるのだが、脳科学も胡散臭いなあと思っている。

 続いて、ギネス記録保持者や資格ゲッターの手法が紹介される。これらは速読に続き、重要部分を繰り返し読み込んで覚えるというほどのものだ。
 文章の種類に応じた速読法というのもあるのだが、それほど明快に分類できるわけでもないし、どこが重要か、どこを読むか、という勘所は結局場数を踏んでいくしかないのではないか。

 重ねてくどいようだが、現実的な速読というのは結局割り切りである。本の真価なんぞ、始めから終いまで読んでやらなきゃ実際のところはわからない。それでもぱらぱら眺めて、こちらが勝手に重要だ、必要だとなんとなく感じたところだけを読んで、それで読んだことにしよう、という強引な割り切りだ。
 それでも良書かどうか怪しいうちに熟読して僅かな本に時間を割くより、何冊もの類書を並べてつまみ食いしておけば知識の取りこぼしも、間違いも少なかろう、という戦略なのだ。
 つまり、1冊1冊の読んでいないところも気になるなあ、といった迷いを振り払い、忘れるぐらい大量の本を「処理」することも、実は不可分の速読術の柱なのである。

 で、速読を使って1週間で専門家になろう、という話があって、元NHKアナウンサーの鈴木健二がやっていたというのだが、網羅的な基本書、入門書にまず当たり、これは熟読して、さらに10冊ほど、いわゆる速読で処理するという学習法である。
 専門家に話を聞く分には十分な知識が身につくと言えるかもしれない。これで専門家と言ってしまっては専門家の立つ瀬がないというものだが。
 前回の都知事選の時、何をトチ狂ったのかジャーナリストの鳥越俊太郎が出馬したのだが、もっぱら国政の、安倍政権への抵抗が主目的で、そんなことに都知事選を利用しないでほしいものだが、対立候補から都政への無関心と不見識ぶりを突っ込まれて、1週間もあれば専門家になれるんだ、と啖呵を切っていた。多分この鈴木健二方式が頭にあったんだろうと思う。アナウンサーとかテレビジャーナリスト業界にはおなじみなのだろう。
 残念ながらこのための僅かな時間を捻出することも叶わなかったようで、最後までド素人のままで大いに無能ぶりを晒して結果的に小池百合子への援護射撃をお見舞いし、彼の全盛期(がいつかは知らないが)に飛ばしまくり切りまくっていたスクープとやらも怪しくなる始末であった。

 自称だか他称だか不明な知の巨人・立花隆の膨大な読書量、知識量も似たような方式で支えられている。流石に冊数はもっと多いようだが。本当に知の巨人ともいうべき賢人であれば知の巨人などというキャッチフレーズはご免こうむって削除させるのではないかなあ、とか、この手の速読法だと自分の”知”に自信のある人間ほど特定のパラダイムやイデオロギーを相対化するのが難しくなって、結局言っていることが十年一日状態になってしまうのだなあ、とか別の方向で納得してしまう部分もある。立花隆そんなに読んでるわけじゃないけれど。

 ともあれ、視野拡大だの識服拡大だの、写真読みだのα波だのといった怪しい速読法もあるのだが、知識を学び、活用するという観点からすれば、効率よくつまみ食いできるようになれば充分なのである。仮にひと目で見開きの文章をすべて理解できるようになったとして、念写でアウトプットできるわけでもあるまいし。というわけで速読本はもういいや。

[本] 牛山恭範「速読暗記勉強法」

 巻末プロフィールの筆者・牛山恭範の肩書はスキルアップコンサルタント。技術習得アドバイザーはどこにいったのか。それはさておき、アマゾンレビューも散々な前回の本でもさらっと触れられていた、速読に特化した本である。
 速読のためにはまずは必要なところだけを破り取ってファイリングせよと勧める。総量を減らせという鉄則である。本を破るのは嫌だという場合、メモ書きする。もちろん、本の内容を理解していなければメモ、ノートなどできないわけだが、テーマ、主張など論理構造に注意して読み解き、図式化しなくてはならない。で、実は本書の内容はこの第1章で終わっているのである。
 
 速読とは別に、ディジシステムという会社が運営する構造ノートというクラウドサービスの紹介もある。知識の習得・ストックに最適なシステムと言うことなのだが、余計なものが多すぎるアウトライナーと言ったらいいか、ぱっと見で使いづらそうなデザインで、現行バージョンはマシになっているかもしれないがそれを確かめようという気も起きないぐらいだ。

 あと、本や書類を左から時系列順なり重要度順なりで整理せよとか、ビジネスマンのスキルを記憶力だの理解力だの行動力だのと分類して、それぞれを向上させると相乗効果がすごいとか、そんな話も書かれている。間違っちゃいないんだろうが、まどろっこしい、ノウハウ屋にありがちなためにする議論だなあと思ってしまう。

 本書では速読を3つに分類している。ひとつは単純ないわゆる速読。暗記に特化した暗記速読、理解に特化した理解速読である。
 
 基本となるベーシックな速読だが、全体を眺めて重要な点、目的に適った部分をピックアップし、そこだけを精読する、という方式である。
 全体を眺めるというところで、写真記憶的に無意識、潜在式には情報が入っている、という説もあるらしいのだが、まあおまじないのようなものだと捉えている。
 精読する段階でも、活字を脳内で音声化・意味化せず、イメージや概念と直結させる意識を持つと読書スピードは加速できる。これは感覚的体験的にわからなくはない話だ。

 暗記速読は、覚えるべきテキストなどの内容の論理構造を抽出し図式化してそれをノートとしてまとめていき、繰り返し何度も眺めて覚えてしまおう、という手法である。暗記速読というが、情報を切り詰めるのが肝で、学習の総量が少なければ速読もクソもなく、むしろ暗記ノート術というべきものだ。
 
 理解速読だが、こちらも要は、論理構造の把握ということになる。暗記速読では断片的な知識の構造を把握するという趣で、こちらは書籍全体、分野全体の構造把握が理解を助けると言ったニュアンスだ。複数の書籍に当たり、基礎から応用へと段階を踏み、知識を増やし、難解な概念も既知の知識やその論文などの全体構造などを手がかりに理解していこう、という話である。

 結局、暗記速読、理解速読、と無理くり速読とつけているのだが、速読としてやることは結局一つで、意味のある分類ではない。速読を暗記に応用しよう、速読で理解力を向上させよう、という話なのだ。
 暗記するためには繰り返すしかなく、たとえわずかでも読書スピードが向上すればより多く繰り返せるし、あるいはより短時間で学習が済む。難解な概念を理解するためには基礎から積み上げられた豊かな知識が必要で、そのためにはたくさん本を読んでおいたほうが良い。だから速読は意味がある。しかし、その速読とは結局、普通の速読なのである。○○速読といわれてなにかしら特殊な未知の読み方を期待してしまったのはこちらが悪いのだろう。

 さらにいえば、同工異曲の本が溢れている速読という概念自体が、羊頭狗肉なものではないかと思う。パラパラめくって内容が頭に入るとか、一瞬見た画像をサヴァン的に脳内に焼き付けるとか、そういう超能力的な話ではなく、要るとこだけ読めばいいよね、という話なのだからして。ならば、省エネ読書術、ヤマ勘学習法、とか名乗るべきではないだろうか。

[本] 池谷裕二「だれでも天才になれる 脳の仕組みと科学的勉強法」

 池谷裕二はTBS系「ニュースキャスター」のコメンテーターとして見かける事がある脳科学者である。脳科学というとなんだか胡散臭いイメージがあるのだが、本書は100ページ足らずというお手軽さと書いてあることの無難さからいってそうそう悪い本ではない。タイトルのだれでも天才に、というのは、この手のノウハウ本のお約束であってツッコんだら負けだろう。
 
 脳科学に基づいた効率的勉強法というがそれほど特異なものはない。こんな劇的に効率アップする方法があったのか、やったぜ、というようなものを期待してはダメである。期待するわきゃないか。
 この本自体が2004年となかなか古い本で、それ以前からもこのようなことはいわれてきたのだろうし、この本やその他類書のノウハウが子引き孫引きされて巷に流布して、昨今ではネットの個人ブログやノウハウ系のまとめサイトとかに雨後の筍のように書かれ拡散しているわけだが、トンデモな知識でなければ庶民の教育水準の向上に一役買っていると言えるわけで悪いことではない。

 というわけでざっくりメモ。

①脳は基本的に忘れんボダから繰り返すことで記憶を強化すべし。
 繰り返しのタイミングとしては
 1.学習の翌日
 2.一週間後
 3.三週間後
 4.2ヶ月後
 以上4回がおすすめ。2ヶ月も経ったら忘れてる自信があるが。

②情報を入れるだけの知識記憶より、体験の中で得た情報のほうが覚えやすい。学習内容を他者に説明すると知識学習を容易に経験学習に変えられるので効果的である。

③視覚より聴覚。音読も定番の勉強法ではある。めんどくさいけど。動物は視覚より聴覚のほうが早く発達してきたからとかなんとか。意外と動物は目に頼っていない(おめぇ目が良すぎるんだby孫悟空)。野生動物がどうとか、原始人の生活がどうとかを現代人に当てはめる論法は個人的に胡散臭さを覚えるがそれはさておき。心を砕く過去の嫌なセリフがいつまでもリフレインするのもこのせいか。

④睡眠中に記憶が整理されるので睡眠時間は6時間以上は確保したい。
 睡眠中に学習内容が整理され、学習効果が増進される「レミニセンス」が起こる。したがって、同じ6時間の学習でも、まとめて一日でやった場合より、2時間ずつ3日でやるほうが間に二度睡眠を挟むので学習効果が高い。
 スマホのパズルゲームとか寝る前にクリアできなくて翌朝起きてからやるとすんなり解けたりすることはままあるがこれなんだろうか。

で、この整理整頓であるが、脳が勝手にやるばかりでなく意識的に工夫するのも重要で、

⑤情報のパッケージ化。断片的な情報を詰め込んで丸暗記するより、関連情報とつなげると覚えやすい。英単語などバラで覚えるより例文とセットで覚えると良いとかなんとか。

⑥情報の体系化。学習対象の概観を掴んでから細部の学習に移る。

⑦ノウハウ、手続きといった一連の流れを掴んで各局面を覚えるのも効果的。方法記憶。

 といったものがある。

 また、過去の学習との類似性・共通パターンなどが新規の学習を加速するなど、これらの情報のつながりが累乗的な学習効果を生むので、勉強の成果が見えるのは時間がかかるが一度伸び始めるとすごい。
 

⑧対象に興味を持つ。 

⑨感情を絡めると覚えやすい。歴史の勉強で例えば戦国武将などに感情移入すると記憶が定着しやすい。

というわけでこんな方法もオススメとなるわけだ。

[本] 本山勝寛「「東大」「ハーバード」ダブル合格 16倍速勉強法」/「頭が良くなる!マンガ勉強法」

 先日、泡沫野党の代表が何度めかの野合に際して「1+1は2じゃない。民進と希望は1+1で200だ。10倍だ」と言ったとか言わなかったとかいうネタがネットに流れていた。ネタである。ネタであるのだが、この間抜けすぎるセリフがあまりにも彼のイメージにフィットしてしまう。

https://togetter.com/li/1222060

 元ネタは若き日のプロレスラー天山と小島のプロレス誌のコメントだ。こういうおバカなノリと勢いを足し算で表すというネタとしては、「キン肉マン」のウォーズマン理論も有名である。

 タイトルから同じようなおバカな臭いをうっすら漂わせる「『東大』『ハーバード』ダブル合格 16倍速勉強法」。16倍というのはお勉強の4つの柱を強化して倍にすると、2×2×2×2=16になるという実にざっくりした計算なのだ。まあ、この手の量産型ビジネス書のタイトルは目立ってなんぼなのでそのタイトルが胡散臭いからと言って中身が100%ダメというわけではない。
 著者・本山勝寛は、東大工学部、ハーバード大学院を修了した超秀才である。しかも、決して裕福な家庭の生まれではなく、中学高校は公立校、塾に通ったことも家庭教師についたこともない。野球部で練習に明け暮れ、中学からバイトもしていたという本山は、金、時間といったリソースが潤沢だったわけではない。そんな僕でも超難関を突破してきた最強の勉強法、といった趣なのだが、怪しいノウハウ本の要注意なパターンである。この経歴からわかるのは、本山が経済的には恵まれなくともイイ頭には恵まれたというだけの話である。

 もっとも、生まれつきの金持ちが心がける倹約法やビジネスの心得が、無一文の人間にも場合によっては有用であるかもしれないように、生まれつき頭のいい人間が実践してきた勉強法が、生まれつきそれほど頭が良くない人間にも、時に有用である可能性はゼロとはいえない。

 本山がいう4つのポイントとは地頭、戦略、時間、効率である。
① 地頭がいいこと。身も蓋もない。普通記憶力がいいとか回転が速いとかをイメージしがちだが、本山は、読み書き算盤のことと言う。言い換えれば、読解力、文章力(表現力)、計算能力。それ自体がお勉強じゃねーか、という気もするが。まあ、基礎ができていなければ何を勉強しようにもはじめようがないし、努力次第でなんとかなりそうなファクターではある。倍になるかは怪しいが。
② 戦略。目的とその達成に最適な計画立案。期限の設定、モチベーションの維持、など。割りとオーソドックスである。これだけ情報が溢れている世の中で、通常より倍も効果的な戦略立案というのがすでに画餅感がある。 
③ 時間。効率的な時間の使い方、スキマ時間の活用、といったところである。わたしのようにだらけた人間ならいざしらず、現状でそれなりに頑張っている人間の勉強時間を倍に増やせるだろうか。
④ 効率。集中して勉強しようと言うほどのことである。あとは②とも関連するが、勉強した気になるだけの無駄な作業を避ける、とか、試験対策なら問題集にあたって弱点を明らかにしてからそこに傾注するといった工夫もあるだろう。

 全体に間違ってはいないのだろうし、実践すれば効果的であろうという勉強法・生活習慣の数々が紹介されているのだが、4本柱で16倍という数式に当てはめるために、特に戦略と効率など、なんだかかえってわかりにくい分類になっている気もしないでもない。その16倍というのも、偏差値25も頑張れば50になるよ、という話を4段重ねしたようなものである。最後にチェックシートがあってやること一覧になっているのがまあ親切設計か。
 肝心要と言うべき「地頭」の項だが基礎学力の充実といった話で、あとは脳トレっぽい話とか身体を動かそうとか、実にふわっとした内容である。もともと頭のいい人に頭を良くする方法を期待する方がそもそも間違っているのだが。

 なんらかの目的を持って勉強のようなことをしている人がたまたま入手した際、チェックシートで現状の勉強習慣を検討してみるといいかもしれないがそうでない場合は、それほど益のある本ではないと思う。まあビジネス書だしな。

 地頭-読解力で、対象分野の入門編として漫画や小説を読むことを勧めているのだが、そこを拡大したような本が「頭がよくなる!マンガ勉強法」である。

「読書は勉強の王道中の王道であると同時に、仕事においても基礎的な筋力となる」と本山は言う。読書という、内容はさておき誰にでもできる営為でもって人生をなんとかしたいとは誰しも思い、だからビジネス書が売れ、その中でも読書術速読術勉強術が定番のジャンルになっている。
 それも嫌々やるより好きになったほうがよい。そして、読書好きになるには4つのポイントがある。

① 面白い本に会う
② 好きなテーマ、関心のあるテーマについての本を読む
③ 前提知識のある本を読む
④ 自分の知識レベルに合った本を読む

 で、本を読むには前提知識が必要だが、本を読まなければ前提知識が身につかない、というジレンマが生じる。そこでマンガである。というのが本山の主張である。

① 大体のマンガは面白い。
② 興味のないテーマでもマンガとして読むうちに興味が湧く
③ マンガは前提知識の絵解きでもある。
④ マンガは誰でも読める。

と、勉強の入門編にはもってこいの条件が揃っている、というわけだ。

 そして、本書は、ビジネス・経済、会計、政治、日本史、世界史、英語、といった各ジャンルに関してオススメのマンガとそれに続く入門書、専門書が紹介されているブックガイドにもなっている。

 わたし自身、歴史マンガから歴史が好きになって学生時代成績は比較的良かったりしたので、この「マンガ勉強法」自体は面白いし有効だと思う。とくに不案内なビジネス・経済、会計分野はブックガイドを活用したいところだが、この文庫版が既に6年前、元の本自体約10年前だしなあ。挙げられている書名を検索しといたらAmazonが適当に新作をおすすめしてくれんだろうか(超受け身)。

[読書]佐藤優「読書の技法」

日本人は読書が好きである。ということになっている。少なくとも活字好きである。本なんか読まない、という人も、スマホで芸能ニュースを追い、まとめサイトを眺めて嫌いな有名人のあら捜しをして溜飲を下げているものである。英語のような国際的な言語はさておき、これほど大量の文書が日々印刷され配信され読まれているというのはほかにちょっとないのではないか。

などと日本スゲーをやりたいわけではない。

知の世界は誰にでも開かれている、などという啓蒙主義っぽい言い方は誰が言ったのかわからないぐらい手垢がつきまくっているが、何の取り柄も家柄も肩書も財産も地位もないという人間でも、読書をして知識を身に付けさえすれば、多少はマシな人間になり、さらには自分はそこらの凡愚とはちょいと違うのだぜ、というささやかな自尊心を護持できる、というお手軽な自己啓発まがいの下心も、人々を読書に向かわせる要因なのではないか。

まあほかならぬわたしがそうである。

となると一冊でも多く読んでドヤ顔したいわけで、メディアに登場するジャーナリストや評論家と言った肩書の皆さんは月の本代が100万だとか、毎月300冊読破するとか豪語していて少々胡散臭かったりするのだが、一冊に数日はかかる身の上としては多少なりともあやかりたい。

で、「外務省のラスプーチン」だとか「知の怪人」だとか胡散臭さ全開の肩書を複数持っている元外交官で作家の佐藤優の「読書の技法」である。

kindleで購入し、ノートPCやスマホで読んだのだが、電書はあまり相性がよろしくない。見たいページにいくのに目次機能が便利な気もするが、紙の本でも不自由はないしなあ。kindle paperwhiteのような専用端末ならまた違うのかもしれないが、ちょっと試してみるか、というお値段ではない。

本書では、月平均300冊、多い月は500冊以上、という膨大な読書量を誇る御仁のその読書の秘訣が惜しみなく明かされている。

「日本は現在、危機に直面している。
(略)
最近の教養ブームの背景には、「知力を強化しなくては生き残っていけないのではないか」という日本人の集合的無意識が反映していると筆者は見ている。確かに「知は力」であり「力は知」である。知力をつけるために、不可欠なのが読書だ。
筆者の読書術について、全力を投球して書いたのが本書である。」

と高らかに宣言する。

その読書術だが、この手の読書術・速読術系のビジネス書に無駄金を払ってきた身の上としては特別目新しいことが書いてあるわけではない。
パラパラとめくってそれだけで内容がすべて頭に入ってしまう、などという超能力のような速読法に若い頃憧れたことがあるのだが、まあ、あれは何らかのトリックか、サヴァン症のような類の障害だろうと考えている。
現実的な速読法の要諦は、逆説的だが、いかに読まないか、ということでもある。

① 表紙やまえがきあとがきを読み、パラパラと眺め、読むべきかどうかを判定する。無駄だと思えば読まない。
② 読むべきだと判断しても、頭から最後まで読むようなことはせず、何を調べるのか、何を知りたいのか目的を明確にし、その目的にかなった部分以外は読まない。どこが読むべき場所か、というのは目次であったり、小見出しであったり、パラパラで得られた感触によって判断される。まあ、適当なものである。
③ その上で必要なもの、使える部分のみを精読し、場合によってはノートに転記し、その知識を活用する。

お眼鏡にかない精読対象として生き残る本は、佐藤の場合、月に4,5冊、まあ週におよそ1冊、結局、一般的な感覚で本を読んだと言えるのは年に50冊ほどである。人間の一般的な能力としてそのぐらいの読書量を確保できたら御の字だろう。

この読む読まないの判断の大前提として、正確な基礎知識が身についていることが必要で、そのために、佐藤は高校教科書・参考書を活用した基礎学習を勧める。
佐藤と共著もあるジャーナリストの池上彰も、たくさん読むうちに知識が増えていって新しい本で読まなければならない部分はどんどん減っていく、というようなこと言っていた。まあ、やっていることはみんな一緒なのである。

それにしても佐藤や速読自慢知識人がよく言う月300冊というのの大半は、めくっただけでくっだらねーと捨てられた本であるはずで、それを含めてこんなに読破したぞ、と喧伝するのは詐欺的じゃないだろうか。

また、この手の速読法は、結局、自分の思い込みで目の前の情報を仕分けていくわけで、その思い込み自体を相対化、検証する契機がなければただ独断と偏見を枝葉末節でひたすら偏執的に補強していく独善の袋小路に陥る懸念もある。さらに、誤読、見落としの可能性も高まる。

とはいえ、佐藤が本書で書くように、人間の時間は有限である。どの程度で割り切るか、という問題だ。

本書で一番読まれるべきは、売れっ子作家として活躍し、広く指示される知識人が、あれこれ読む前にまずはこれで基礎を押さえよと提起する書籍が、高校教科書・参考書である点だと思う。それは、完全に忘却の彼方とは言え、一応一度は通過している高校レベルの教材が、社会人にとっても、知の基軸にしてブースターでもあるということだ。意外と言えば意外だし、何だそんなこと、という感もあり、同時に心強くないだろうか。
あとまあ、なんといっても教科書は安い。一般書なら1000円2000円しそうなところが数百円だし。ラスプーチンに騙されたと思って歴史と政経ぐらいはおさらいしてみようか。