[本] 斉藤英治「王様の速読術」

 しつこく速読本である。「ぼくは王さま」シリーズを彷彿とさせる安直デザインの王様が「〜じゃ」と言いながら速読術を解説してくれるというかたじけなくもありがたい構成が新味か。あとは基本的には今どきはだれでもどこかで目にしたことのある定番の速読メソッドである。速読法に限らずビジネス書、実用書などは同工異曲のパクリパクられ本の氾濫なわけであるが。
 内容はわかりやすく、速読法に全く不案内で、本は一言一句まで律儀に読むものだと信じていて、そのために1冊ごとに大変な時間を取られ、結果、読書ってめんどくさいなあ、と思って本から離れがちな人にはいいかもしれない本ではある。

 そのメソッドは定番の、
① プレビュー 5分
② 写真読み 5分
③ つまみ読み 20分
である。すなわち1冊30分というわけだ。

 くどいようだが個人的に、写真読みと言われる、読まずに見開き全体を脳に写し込むように云々というのはおまじないのようなものだと考えている。脳科学的にどうこうと言う話もあるのだが、脳科学も胡散臭いなあと思っている。

 続いて、ギネス記録保持者や資格ゲッターの手法が紹介される。これらは速読に続き、重要部分を繰り返し読み込んで覚えるというほどのものだ。
 文章の種類に応じた速読法というのもあるのだが、それほど明快に分類できるわけでもないし、どこが重要か、どこを読むか、という勘所は結局場数を踏んでいくしかないのではないか。

 重ねてくどいようだが、現実的な速読というのは結局割り切りである。本の真価なんぞ、始めから終いまで読んでやらなきゃ実際のところはわからない。それでもぱらぱら眺めて、こちらが勝手に重要だ、必要だとなんとなく感じたところだけを読んで、それで読んだことにしよう、という強引な割り切りだ。
 それでも良書かどうか怪しいうちに熟読して僅かな本に時間を割くより、何冊もの類書を並べてつまみ食いしておけば知識の取りこぼしも、間違いも少なかろう、という戦略なのだ。
 つまり、1冊1冊の読んでいないところも気になるなあ、といった迷いを振り払い、忘れるぐらい大量の本を「処理」することも、実は不可分の速読術の柱なのである。

 で、速読を使って1週間で専門家になろう、という話があって、元NHKアナウンサーの鈴木健二がやっていたというのだが、網羅的な基本書、入門書にまず当たり、これは熟読して、さらに10冊ほど、いわゆる速読で処理するという学習法である。
 専門家に話を聞く分には十分な知識が身につくと言えるかもしれない。これで専門家と言ってしまっては専門家の立つ瀬がないというものだが。
 前回の都知事選の時、何をトチ狂ったのかジャーナリストの鳥越俊太郎が出馬したのだが、もっぱら国政の、安倍政権への抵抗が主目的で、そんなことに都知事選を利用しないでほしいものだが、対立候補から都政への無関心と不見識ぶりを突っ込まれて、1週間もあれば専門家になれるんだ、と啖呵を切っていた。多分この鈴木健二方式が頭にあったんだろうと思う。アナウンサーとかテレビジャーナリスト業界にはおなじみなのだろう。
 残念ながらこのための僅かな時間を捻出することも叶わなかったようで、最後までド素人のままで大いに無能ぶりを晒して結果的に小池百合子への援護射撃をお見舞いし、彼の全盛期(がいつかは知らないが)に飛ばしまくり切りまくっていたスクープとやらも怪しくなる始末であった。

 自称だか他称だか不明な知の巨人・立花隆の膨大な読書量、知識量も似たような方式で支えられている。流石に冊数はもっと多いようだが。本当に知の巨人ともいうべき賢人であれば知の巨人などというキャッチフレーズはご免こうむって削除させるのではないかなあ、とか、この手の速読法だと自分の”知”に自信のある人間ほど特定のパラダイムやイデオロギーを相対化するのが難しくなって、結局言っていることが十年一日状態になってしまうのだなあ、とか別の方向で納得してしまう部分もある。立花隆そんなに読んでるわけじゃないけれど。

 ともあれ、視野拡大だの識服拡大だの、写真読みだのα波だのといった怪しい速読法もあるのだが、知識を学び、活用するという観点からすれば、効率よくつまみ食いできるようになれば充分なのである。仮にひと目で見開きの文章をすべて理解できるようになったとして、念写でアウトプットできるわけでもあるまいし。というわけで速読本はもういいや。

[本] 牛山恭範「速読暗記勉強法」

 巻末プロフィールの筆者・牛山恭範の肩書はスキルアップコンサルタント。技術習得アドバイザーはどこにいったのか。それはさておき、アマゾンレビューも散々な前回の本でもさらっと触れられていた、速読に特化した本である。
 速読のためにはまずは必要なところだけを破り取ってファイリングせよと勧める。総量を減らせという鉄則である。本を破るのは嫌だという場合、メモ書きする。もちろん、本の内容を理解していなければメモ、ノートなどできないわけだが、テーマ、主張など論理構造に注意して読み解き、図式化しなくてはならない。で、実は本書の内容はこの第1章で終わっているのである。
 
 速読とは別に、ディジシステムという会社が運営する構造ノートというクラウドサービスの紹介もある。知識の習得・ストックに最適なシステムと言うことなのだが、余計なものが多すぎるアウトライナーと言ったらいいか、ぱっと見で使いづらそうなデザインで、現行バージョンはマシになっているかもしれないがそれを確かめようという気も起きないぐらいだ。

 あと、本や書類を左から時系列順なり重要度順なりで整理せよとか、ビジネスマンのスキルを記憶力だの理解力だの行動力だのと分類して、それぞれを向上させると相乗効果がすごいとか、そんな話も書かれている。間違っちゃいないんだろうが、まどろっこしい、ノウハウ屋にありがちなためにする議論だなあと思ってしまう。

 本書では速読を3つに分類している。ひとつは単純ないわゆる速読。暗記に特化した暗記速読、理解に特化した理解速読である。
 
 基本となるベーシックな速読だが、全体を眺めて重要な点、目的に適った部分をピックアップし、そこだけを精読する、という方式である。
 全体を眺めるというところで、写真記憶的に無意識、潜在式には情報が入っている、という説もあるらしいのだが、まあおまじないのようなものだと捉えている。
 精読する段階でも、活字を脳内で音声化・意味化せず、イメージや概念と直結させる意識を持つと読書スピードは加速できる。これは感覚的体験的にわからなくはない話だ。

 暗記速読は、覚えるべきテキストなどの内容の論理構造を抽出し図式化してそれをノートとしてまとめていき、繰り返し何度も眺めて覚えてしまおう、という手法である。暗記速読というが、情報を切り詰めるのが肝で、学習の総量が少なければ速読もクソもなく、むしろ暗記ノート術というべきものだ。
 
 理解速読だが、こちらも要は、論理構造の把握ということになる。暗記速読では断片的な知識の構造を把握するという趣で、こちらは書籍全体、分野全体の構造把握が理解を助けると言ったニュアンスだ。複数の書籍に当たり、基礎から応用へと段階を踏み、知識を増やし、難解な概念も既知の知識やその論文などの全体構造などを手がかりに理解していこう、という話である。

 結局、暗記速読、理解速読、と無理くり速読とつけているのだが、速読としてやることは結局一つで、意味のある分類ではない。速読を暗記に応用しよう、速読で理解力を向上させよう、という話なのだ。
 暗記するためには繰り返すしかなく、たとえわずかでも読書スピードが向上すればより多く繰り返せるし、あるいはより短時間で学習が済む。難解な概念を理解するためには基礎から積み上げられた豊かな知識が必要で、そのためにはたくさん本を読んでおいたほうが良い。だから速読は意味がある。しかし、その速読とは結局、普通の速読なのである。○○速読といわれてなにかしら特殊な未知の読み方を期待してしまったのはこちらが悪いのだろう。

 さらにいえば、同工異曲の本が溢れている速読という概念自体が、羊頭狗肉なものではないかと思う。パラパラめくって内容が頭に入るとか、一瞬見た画像をサヴァン的に脳内に焼き付けるとか、そういう超能力的な話ではなく、要るとこだけ読めばいいよね、という話なのだからして。ならば、省エネ読書術、ヤマ勘学習法、とか名乗るべきではないだろうか。

[本]牛山恭範「自動記憶勉強法」

 技術習得アドバイザー。聞いたことのない肩書である。それもそのはず、世界初の、と謳っている。こういうのは言ったもん勝ちである。世にあふれる資格も、取るより試験をでっち上げて受験料をかき集めたほうが儲かるという噂を聞いたことがあるようなないような。
 自動記憶、夢の睡眠学習のような、といった尖った表現もあって少々怪しいが、ごくオーソドックスな勉強法を紹介した本である。

 記憶術だが、体質的な意味での天才でもない限り、結局のところ繰り返す以外にないわけである。
 繰り返すためには覚えるべき総量を減らす必要がある。試験勉強であれば少なくとも過去問題集はあるはずで、それをまず解き、できない部分をあぶり出し、そこに注力すればいい。そう言われても、特に過去問集などは絶対に本番で出てくるはずはないのだから、と不安になり、テキストを完璧に理解・記憶して満点とってやろう、などという不可能な夢想をして結局果たせずに学力の伸長もないまま本番を迎える、というのができない人間の常である。というか、わたしである。
 また、パレートの法則というのも嫌というほどよく言われる単語である。商売の売上の80%は顧客の20%が支えている、といった考え方で、試験ならば、80点取るために必要な知識は全体の20%でよいということになる。
 理屈としてへえと聞く分にはいいのだが、実際、自分の勉強に応用しようとなると、20%に傾注するという割り切りが、やはり不安で受け入れられず、結局優劣無視して片端からやっつけようとして挫折するのが常である。まあ、わたしだ。
 今後試験のたぐいを受ける予定はないのだが、このように優先情報を覚えてから、よりスキのないようにレア情報も抑える、という段階を踏めばよかったのだろうな、などと後悔するのみである。まあ入学試験だろうが資格試験だろうが、合格後の人間関係の構築がより重要で、そこでコケるのは確実だったので大差はないか。
 本書で自動記憶というのは、覚えるべきポイントをICレコーダーなどで音声化し、しつこく繰り返し聞いて覚えてしまおう、という方式である。CMのフレーズをなんとなく覚えてしまうのと同じだ。

 繰り返しのためには速読も有効であるという。ざっくりとコツとか訓練法も書かれている。が、活字をいちいち脳内で音声化するとか、活字の一字一字をはっきり見ようとしたり、といった非効率的な読み方を改めれば充分で、速読のために訓練時間を割くとかは意味がないと思う。2倍3倍とか挙げ句には10倍速く読めるならばその甲斐もあろうが、万人向けだとは思えない。本を読み、知識が増え、結果的に読書速度が上がっていた、そういうもので十分だ。前述のように繰り返して学習するべき情報量を、目的(多くは試験合格か)達成のために必要十分な水準まで絞り込む作業こそが肝だろう。

 また、イメージ記憶術とでも言うべき方式も勧められている。本書では、だれかしら好きな人物を思い浮かべ、その鼻なり耳なり口なりと言った身体の各部位に覚えるべき諸々を結びつけてまとめて覚えてしまおうという記憶術である。似たような話は結構ある。タモリが一時「いいとも」でやっていたのはストーリー仕立てだったが、結局同じことだ。TVドラマの「メンタリスト」で主人公の詐欺師は“記憶の宮殿”とかいって同じようなやり方を披露していた。

 また、イメージを豊かに持つことは、記憶の前提としての理解の一助にもなる。そのためにはマンガが有効である、とまたしてもマンガ学習推しである。勉強のためのマンガってそれだけでうげっという感じなのだが、図説・図解が豊富だと理解が進むのは確かだ。

 人間の記憶には視覚より聴覚の方が有効であるというような説があるのだが、個人的には耳で聞く情報を把握すること自体が結構苦手で、電話とか出たくないし、活字の方が安心するし覚えやすい気がする。映像記憶と言えるほど大層なものではないが。これは他者との会話の絶対量が少なく、ネットであれ紙であれ字ばかり見ているせいだという気もするが知ったことではない。

 そして、以上のような学習法を着実に遂行するための方法論も書かれている。
 心が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる云々というブラックな経営者が好みそうな標語がある。もとは心理学者のウィリアム・ジェイムズの言葉で元プロ野球の松井秀喜が掲げていたとかで有名になったらしいのだが、ブラック経営者が自分好みにマイナーチェンジさせていって亜種をそこかしこで見かける。
 要は、人間は自分の意志で動いているつもりでいて潜在意識の操り人形である、したがって、やるべき学習習慣を実行するために潜在意識を変えようという話である。

 理屈はさておき、やることは目新しいものではない。ひとつに、目標を繰り返し宣言することで逆に潜在意識を書き換えてやろうという力技である。昭和のドラマによくある浪人生の部屋に合格とか標語が貼ってあるあれか。目標をみんなの前で叫ばせるとか、子供ならスパルタ、社会人ならブラック、と言った単語が思い浮かぶ。まあ個人が勝手にこっそりささやく程度ならやって損はないだろう。
 また、目標達成の結果得られるアメと、失敗した場合のムチをイメージすることも有効だという。まあベタではあるが間違ってはいないか。

 本書は10年前の本だが、勉強法の本はまた新しい著者の新しい本が書店に並んでいる。が、多分内容としては似たようなことが書いてあるのだろう。有効なメソッドは少なく、しかも繰り返し手を変え品を変え書かれている。ただ、それを実行する人間がいないから、同じような本が書かれて、それなりに売れるのだろう。

[本] 池谷裕二「だれでも天才になれる 脳の仕組みと科学的勉強法」

 池谷裕二はTBS系「ニュースキャスター」のコメンテーターとして見かける事がある脳科学者である。脳科学というとなんだか胡散臭いイメージがあるのだが、本書は100ページ足らずというお手軽さと書いてあることの無難さからいってそうそう悪い本ではない。タイトルのだれでも天才に、というのは、この手のノウハウ本のお約束であってツッコんだら負けだろう。
 
 脳科学に基づいた効率的勉強法というがそれほど特異なものはない。こんな劇的に効率アップする方法があったのか、やったぜ、というようなものを期待してはダメである。期待するわきゃないか。
 この本自体が2004年となかなか古い本で、それ以前からもこのようなことはいわれてきたのだろうし、この本やその他類書のノウハウが子引き孫引きされて巷に流布して、昨今ではネットの個人ブログやノウハウ系のまとめサイトとかに雨後の筍のように書かれ拡散しているわけだが、トンデモな知識でなければ庶民の教育水準の向上に一役買っていると言えるわけで悪いことではない。

 というわけでざっくりメモ。

①脳は基本的に忘れんボダから繰り返すことで記憶を強化すべし。
 繰り返しのタイミングとしては
 1.学習の翌日
 2.一週間後
 3.三週間後
 4.2ヶ月後
 以上4回がおすすめ。2ヶ月も経ったら忘れてる自信があるが。

②情報を入れるだけの知識記憶より、体験の中で得た情報のほうが覚えやすい。学習内容を他者に説明すると知識学習を容易に経験学習に変えられるので効果的である。

③視覚より聴覚。音読も定番の勉強法ではある。めんどくさいけど。動物は視覚より聴覚のほうが早く発達してきたからとかなんとか。意外と動物は目に頼っていない(おめぇ目が良すぎるんだby孫悟空)。野生動物がどうとか、原始人の生活がどうとかを現代人に当てはめる論法は個人的に胡散臭さを覚えるがそれはさておき。心を砕く過去の嫌なセリフがいつまでもリフレインするのもこのせいか。

④睡眠中に記憶が整理されるので睡眠時間は6時間以上は確保したい。
 睡眠中に学習内容が整理され、学習効果が増進される「レミニセンス」が起こる。したがって、同じ6時間の学習でも、まとめて一日でやった場合より、2時間ずつ3日でやるほうが間に二度睡眠を挟むので学習効果が高い。
 スマホのパズルゲームとか寝る前にクリアできなくて翌朝起きてからやるとすんなり解けたりすることはままあるがこれなんだろうか。

で、この整理整頓であるが、脳が勝手にやるばかりでなく意識的に工夫するのも重要で、

⑤情報のパッケージ化。断片的な情報を詰め込んで丸暗記するより、関連情報とつなげると覚えやすい。英単語などバラで覚えるより例文とセットで覚えると良いとかなんとか。

⑥情報の体系化。学習対象の概観を掴んでから細部の学習に移る。

⑦ノウハウ、手続きといった一連の流れを掴んで各局面を覚えるのも効果的。方法記憶。

 といったものがある。

 また、過去の学習との類似性・共通パターンなどが新規の学習を加速するなど、これらの情報のつながりが累乗的な学習効果を生むので、勉強の成果が見えるのは時間がかかるが一度伸び始めるとすごい。
 

⑧対象に興味を持つ。 

⑨感情を絡めると覚えやすい。歴史の勉強で例えば戦国武将などに感情移入すると記憶が定着しやすい。

というわけでこんな方法もオススメとなるわけだ。

[本] 本山勝寛「「東大」「ハーバード」ダブル合格 16倍速勉強法」/「頭が良くなる!マンガ勉強法」

 先日、泡沫野党の代表が何度めかの野合に際して「1+1は2じゃない。民進と希望は1+1で200だ。10倍だ」と言ったとか言わなかったとかいうネタがネットに流れていた。ネタである。ネタであるのだが、この間抜けすぎるセリフがあまりにも彼のイメージにフィットしてしまう。

https://togetter.com/li/1222060

 元ネタは若き日のプロレスラー天山と小島のプロレス誌のコメントだ。こういうおバカなノリと勢いを足し算で表すというネタとしては、「キン肉マン」のウォーズマン理論も有名である。

 タイトルから同じようなおバカな臭いをうっすら漂わせる「『東大』『ハーバード』ダブル合格 16倍速勉強法」。16倍というのはお勉強の4つの柱を強化して倍にすると、2×2×2×2=16になるという実にざっくりした計算なのだ。まあ、この手の量産型ビジネス書のタイトルは目立ってなんぼなのでそのタイトルが胡散臭いからと言って中身が100%ダメというわけではない。
 著者・本山勝寛は、東大工学部、ハーバード大学院を修了した超秀才である。しかも、決して裕福な家庭の生まれではなく、中学高校は公立校、塾に通ったことも家庭教師についたこともない。野球部で練習に明け暮れ、中学からバイトもしていたという本山は、金、時間といったリソースが潤沢だったわけではない。そんな僕でも超難関を突破してきた最強の勉強法、といった趣なのだが、怪しいノウハウ本の要注意なパターンである。この経歴からわかるのは、本山が経済的には恵まれなくともイイ頭には恵まれたというだけの話である。

 もっとも、生まれつきの金持ちが心がける倹約法やビジネスの心得が、無一文の人間にも場合によっては有用であるかもしれないように、生まれつき頭のいい人間が実践してきた勉強法が、生まれつきそれほど頭が良くない人間にも、時に有用である可能性はゼロとはいえない。

 本山がいう4つのポイントとは地頭、戦略、時間、効率である。
① 地頭がいいこと。身も蓋もない。普通記憶力がいいとか回転が速いとかをイメージしがちだが、本山は、読み書き算盤のことと言う。言い換えれば、読解力、文章力(表現力)、計算能力。それ自体がお勉強じゃねーか、という気もするが。まあ、基礎ができていなければ何を勉強しようにもはじめようがないし、努力次第でなんとかなりそうなファクターではある。倍になるかは怪しいが。
② 戦略。目的とその達成に最適な計画立案。期限の設定、モチベーションの維持、など。割りとオーソドックスである。これだけ情報が溢れている世の中で、通常より倍も効果的な戦略立案というのがすでに画餅感がある。 
③ 時間。効率的な時間の使い方、スキマ時間の活用、といったところである。わたしのようにだらけた人間ならいざしらず、現状でそれなりに頑張っている人間の勉強時間を倍に増やせるだろうか。
④ 効率。集中して勉強しようと言うほどのことである。あとは②とも関連するが、勉強した気になるだけの無駄な作業を避ける、とか、試験対策なら問題集にあたって弱点を明らかにしてからそこに傾注するといった工夫もあるだろう。

 全体に間違ってはいないのだろうし、実践すれば効果的であろうという勉強法・生活習慣の数々が紹介されているのだが、4本柱で16倍という数式に当てはめるために、特に戦略と効率など、なんだかかえってわかりにくい分類になっている気もしないでもない。その16倍というのも、偏差値25も頑張れば50になるよ、という話を4段重ねしたようなものである。最後にチェックシートがあってやること一覧になっているのがまあ親切設計か。
 肝心要と言うべき「地頭」の項だが基礎学力の充実といった話で、あとは脳トレっぽい話とか身体を動かそうとか、実にふわっとした内容である。もともと頭のいい人に頭を良くする方法を期待する方がそもそも間違っているのだが。

 なんらかの目的を持って勉強のようなことをしている人がたまたま入手した際、チェックシートで現状の勉強習慣を検討してみるといいかもしれないがそうでない場合は、それほど益のある本ではないと思う。まあビジネス書だしな。

 地頭-読解力で、対象分野の入門編として漫画や小説を読むことを勧めているのだが、そこを拡大したような本が「頭がよくなる!マンガ勉強法」である。

「読書は勉強の王道中の王道であると同時に、仕事においても基礎的な筋力となる」と本山は言う。読書という、内容はさておき誰にでもできる営為でもって人生をなんとかしたいとは誰しも思い、だからビジネス書が売れ、その中でも読書術速読術勉強術が定番のジャンルになっている。
 それも嫌々やるより好きになったほうがよい。そして、読書好きになるには4つのポイントがある。

① 面白い本に会う
② 好きなテーマ、関心のあるテーマについての本を読む
③ 前提知識のある本を読む
④ 自分の知識レベルに合った本を読む

 で、本を読むには前提知識が必要だが、本を読まなければ前提知識が身につかない、というジレンマが生じる。そこでマンガである。というのが本山の主張である。

① 大体のマンガは面白い。
② 興味のないテーマでもマンガとして読むうちに興味が湧く
③ マンガは前提知識の絵解きでもある。
④ マンガは誰でも読める。

と、勉強の入門編にはもってこいの条件が揃っている、というわけだ。

 そして、本書は、ビジネス・経済、会計、政治、日本史、世界史、英語、といった各ジャンルに関してオススメのマンガとそれに続く入門書、専門書が紹介されているブックガイドにもなっている。

 わたし自身、歴史マンガから歴史が好きになって学生時代成績は比較的良かったりしたので、この「マンガ勉強法」自体は面白いし有効だと思う。とくに不案内なビジネス・経済、会計分野はブックガイドを活用したいところだが、この文庫版が既に6年前、元の本自体約10年前だしなあ。挙げられている書名を検索しといたらAmazonが適当に新作をおすすめしてくれんだろうか(超受け身)。

[読書]佐藤優「読書の技法」

日本人は読書が好きである。ということになっている。少なくとも活字好きである。本なんか読まない、という人も、スマホで芸能ニュースを追い、まとめサイトを眺めて嫌いな有名人のあら捜しをして溜飲を下げているものである。英語のような国際的な言語はさておき、これほど大量の文書が日々印刷され配信され読まれているというのはほかにちょっとないのではないか。

などと日本スゲーをやりたいわけではない。

知の世界は誰にでも開かれている、などという啓蒙主義っぽい言い方は誰が言ったのかわからないぐらい手垢がつきまくっているが、何の取り柄も家柄も肩書も財産も地位もないという人間でも、読書をして知識を身に付けさえすれば、多少はマシな人間になり、さらには自分はそこらの凡愚とはちょいと違うのだぜ、というささやかな自尊心を護持できる、というお手軽な自己啓発まがいの下心も、人々を読書に向かわせる要因なのではないか。

まあほかならぬわたしがそうである。

となると一冊でも多く読んでドヤ顔したいわけで、メディアに登場するジャーナリストや評論家と言った肩書の皆さんは月の本代が100万だとか、毎月300冊読破するとか豪語していて少々胡散臭かったりするのだが、一冊に数日はかかる身の上としては多少なりともあやかりたい。

で、「外務省のラスプーチン」だとか「知の怪人」だとか胡散臭さ全開の肩書を複数持っている元外交官で作家の佐藤優の「読書の技法」である。

kindleで購入し、ノートPCやスマホで読んだのだが、電書はあまり相性がよろしくない。見たいページにいくのに目次機能が便利な気もするが、紙の本でも不自由はないしなあ。kindle paperwhiteのような専用端末ならまた違うのかもしれないが、ちょっと試してみるか、というお値段ではない。

本書では、月平均300冊、多い月は500冊以上、という膨大な読書量を誇る御仁のその読書の秘訣が惜しみなく明かされている。

「日本は現在、危機に直面している。
(略)
最近の教養ブームの背景には、「知力を強化しなくては生き残っていけないのではないか」という日本人の集合的無意識が反映していると筆者は見ている。確かに「知は力」であり「力は知」である。知力をつけるために、不可欠なのが読書だ。
筆者の読書術について、全力を投球して書いたのが本書である。」

と高らかに宣言する。

その読書術だが、この手の読書術・速読術系のビジネス書に無駄金を払ってきた身の上としては特別目新しいことが書いてあるわけではない。
パラパラとめくってそれだけで内容がすべて頭に入ってしまう、などという超能力のような速読法に若い頃憧れたことがあるのだが、まあ、あれは何らかのトリックか、サヴァン症のような類の障害だろうと考えている。
現実的な速読法の要諦は、逆説的だが、いかに読まないか、ということでもある。

① 表紙やまえがきあとがきを読み、パラパラと眺め、読むべきかどうかを判定する。無駄だと思えば読まない。
② 読むべきだと判断しても、頭から最後まで読むようなことはせず、何を調べるのか、何を知りたいのか目的を明確にし、その目的にかなった部分以外は読まない。どこが読むべき場所か、というのは目次であったり、小見出しであったり、パラパラで得られた感触によって判断される。まあ、適当なものである。
③ その上で必要なもの、使える部分のみを精読し、場合によってはノートに転記し、その知識を活用する。

お眼鏡にかない精読対象として生き残る本は、佐藤の場合、月に4,5冊、まあ週におよそ1冊、結局、一般的な感覚で本を読んだと言えるのは年に50冊ほどである。人間の一般的な能力としてそのぐらいの読書量を確保できたら御の字だろう。

この読む読まないの判断の大前提として、正確な基礎知識が身についていることが必要で、そのために、佐藤は高校教科書・参考書を活用した基礎学習を勧める。
佐藤と共著もあるジャーナリストの池上彰も、たくさん読むうちに知識が増えていって新しい本で読まなければならない部分はどんどん減っていく、というようなこと言っていた。まあ、やっていることはみんな一緒なのである。

それにしても佐藤や速読自慢知識人がよく言う月300冊というのの大半は、めくっただけでくっだらねーと捨てられた本であるはずで、それを含めてこんなに読破したぞ、と喧伝するのは詐欺的じゃないだろうか。

また、この手の速読法は、結局、自分の思い込みで目の前の情報を仕分けていくわけで、その思い込み自体を相対化、検証する契機がなければただ独断と偏見を枝葉末節でひたすら偏執的に補強していく独善の袋小路に陥る懸念もある。さらに、誤読、見落としの可能性も高まる。

とはいえ、佐藤が本書で書くように、人間の時間は有限である。どの程度で割り切るか、という問題だ。

本書で一番読まれるべきは、売れっ子作家として活躍し、広く指示される知識人が、あれこれ読む前にまずはこれで基礎を押さえよと提起する書籍が、高校教科書・参考書である点だと思う。それは、完全に忘却の彼方とは言え、一応一度は通過している高校レベルの教材が、社会人にとっても、知の基軸にしてブースターでもあるということだ。意外と言えば意外だし、何だそんなこと、という感もあり、同時に心強くないだろうか。
あとまあ、なんといっても教科書は安い。一般書なら1000円2000円しそうなところが数百円だし。ラスプーチンに騙されたと思って歴史と政経ぐらいはおさらいしてみようか。